トップダウンの半導体加工技術は、もはや限界に達してしまったとも言われ、これ以上の半導体チップの集積化は、物理的に無理なのではないかと言われています。このような状況の中、今世紀の初頭から、生物が採る「ボトムアップ」方式の微細構造形成法から、革新的な微細加工技術が生まれないかという期待が高まり、全世界レベルで基礎研究が盛んに行われるようになりました。いわゆる「バイオナノテクノロジー」と呼ばれる分野です。われわれは、パナソニック・奈良先端大の山下一郎博士と、生体高分子を利用した微細加工法を「バイオナノプロセス」と呼び、その研究を続けています。
バイオナノプロセスに特に焦点をあてるべき生体高分子(タンパク質)の特徴は、その「特異的認識能力」と「バイオミネラリゼーション能力」、そして「自己組織化能力」です。他の項目の説明でも紹介したように、現在では、いろいろな無機材料を特異的に認識することができるペプチド・アプタマーを、ペプチド提示ファージ系と呼ばれる進化分子工学的手法を用いることで、比較的容易に創り出すことができます。例えば、われわれのグループでは、チタンを特異的に認識するペプチド「TBP-1」(Sano & Shiba, JACS, 2003) を創り出しましたが、このペプチドを、フェリチンと呼ばれる天然のナノ粒子状タンパク質の表面に、組換えレベルで連結することにより、チタンに結合するフェリチン分子を作り出すことができます(Sano et al, Small, 2005)。フェリチンの中には、いろいろな半導体ナノドットを入れることができますので、基板上にパターン化されたチタン領域部位にのみ、金属ナノドットを配置できることになります (Yamashita et al, Small, 2006)。
無機材料に特異的に結合するペプチド・アプタマーは、同時に標的原子の結晶化を促進する場合があることが報告されています。生体高分子による無機物の鉱物化(結晶化、あるいはアモルファス結晶化)を「バイオミネラリゼーション」と呼びます。水中の常温常圧で進む「バイオミネラリゼーション」現象は、材料科学分野でも注目を集める現象でしたが、対象となる無機物がリン酸カルシウムや炭酸カルシウムといった、工業的にはそれほど魅力の無い材料でした。したがって、いかに「バイオミネラリゼーション」の対象範囲を広げるかが、1つの課題であったのですが、上記のように、ペプチド・アプタマーが、同時に「バイオミネラリゼーション」活性を備えるケースが多いことが分かってきたため、現在、「バイオミネラリゼーション」の対象としたい無機材料に結合するペプチド・アプタマーをまず取得し、次にそのペプチドの「バイオミネラリゼーション」活性を探究する、といった戦略が使われるようになってきました。
チタンを特異的に認識するペプチド「TBP-1」も、結合能力のみならず、バイオミネラリゼーション活性も併せ持ちます(Sano et al, Langmuir, 2005)。このペプチド・アプタマーの2つの活性をうまく利用したのが、われわれが開発した「BioLBL法」です(Sano et al, JACS, 2006)。チタン結合ペプチドを組換え的、あるいは化学修飾的にナノ粒子に結合させることで、ナノ粒子の「結合能力」と「ミネラリゼーション能力」の2つの生物活性を賦与することができます(Sano et al, Small, 2005; Sano et al, J Mater Res, 2008)。「BioLBL法」では、まずこの「結合能力」を利用してナノ粒子を基板上に整列させ、次に「ミネラリゼーション能力」を利用して、その上に薄いミネラルの層を形成させます。この薄いミネラル層は、ペプチド・アプタマーの結合ターゲットになりますので、この上にさらに二層目のナノ粒子層を「結合能力」を利用して形成させます。このように、「結合能力」と「ミネラリゼーション能力」を交互に利用することにより、ナノ粒子を積み上げていくのが「BioLBL法」です。
BioLBL法は、ボトムアップ的な微細加工技術ですが、従来のトップダウン的なパターニング法と組み合わせることにより、水中で、X-, Y-, Z-の3D的に制御されたナノ構造が形成できるようになり (Sano et al, Nano Lett, 2007) 、フローティングメモリーなどへの応用が期待されています。生体高分子のもつ第3の特徴である「自己組織化能力」は他の項をご覧下さい。
現在、人工タンパク質を用いたバイオナノプロセスは、奈良先端大学の浦岡行治博士が代表をつとめる、CREST研究「生体超分子援用フロンティアプロセスによる高機能化ナノシステム」の中で、分担研究者として発展研究を進めています。
関連特許(成立したもののみ)
US 7,498,403「チタン、銀、シリコンに結合能を有するペプチド」
特許4592752「機能性材料の三次元構造体」
Copyright (C) Division of Protein Engineering. All Rights Reserved.